法律解釈の手筋

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令和4年度 予備試験 民事訴訟法 解答例

問題

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解答例

【解答例】

第1 設問1(以下、民事訴訟法は法名略。)

1 ①の方法について

(1) Xに当事者適格が認められるか。

ア 当事者適格とは、特定の訴訟物について当事者として訴訟を追行し、本案判決を求めることができる資格をいう。当事者適格が認められるかどうかは、誰が当事者として訴訟を追行し、また、誰に対して本案判決をするのが紛争の解決のために有意義であるかという訴訟法的観点から決する。

イ 本件では、Xは権利能力なき社団(29条)である。判例によれば、権利能力なき社団の有する土地は構成員の総有となるとされる。総有とは、社団の構成員に財産上の持分権や分割請求権を認めない共有権であり、団体的色彩の強い共同所有形態である。かかる性質にかんがみれば、当該団体自身に当事者適格を認めるのが、紛争の複雑化、長期化をさせることなく、解決するために有効かつ適切である。そこで、民法上明文の規定を欠くが、権利能力なき社団は、総有の行使について解釈上認められる法定訴訟担当としての地位を有すると考える(解釈上の法定訴訟担当)。そうだとすれば、Xは、構成員の法定訴訟担当として本案判決を求めることができる資格を有するといえる。

ウ したがって、Xに当事者適格が認められる。

(2) なお、Xの代表者であるAが構成員の3分の2以上の特別多数の同意を要しなければならない点は、訴訟提起・追行権の問題であるところ、仮に構成員の3分の2以上の特別多数の同意を得ることができなければ、Aによる訴えの提起は、訴訟能力を欠くものとして不適法になると考える。

2 ②の方法について

(1) Xの構成員らに当事者適格が認められるか。

(2) まず、②の方法による訴訟は、通常共同訴訟か固有必要的共同訴訟か。固有必要的共同訴訟の場合には訴訟共同の必要があり、共同訴訟人が当事者から欠けると当事者適格が否定されるため問題となる。

ア 当事者適格の意義は前述のとおりであり、訴訟共同の必要性についても前述の観点から判断する。なお、実体法上の管理処分権が認められる場合には、当然に訴訟法的観点からも訴訟共同の必要があると考える。

イ 本件の訴訟物はXの構成員らの甲土地総有権である。総有の意義は前述のとおりであるところ、処分権の自由な分割行使ができず、実体法上の管理処分権の共同行使の必要がある。

ウ したがって、②の方法による訴訟は、固有必要的共同訴訟にあたる。

(3) 次に、Xの構成員らに提訴非同調者が存在する場合、当事者適格が認められないか。

ア 前述のとおり、固有必要的共同訴訟は訴訟共同の必要があるところ、共同訴訟人にいわゆる提訴非同調者がいる場合、原則として当事者適格が否定される。

イ しかし、これでは、提訴非同調者以外の裁判を受ける権利が制約されることとなり、妥当でない。また、提訴非同調者を被告として訴訟に参加させれば、提訴非同調者の手続保障は充足されるし、以下の法的構成によって合一確定の要請も達成できる。

そこで、原告となろうとする者らが提訴非同調者に対して授権請求をし、①総有者の第三者に対する権利の存在が認められ、②現在訴訟することが有効かつ適切と認められる場合には、授権判決がなされることによって、原告が、提訴非同調者である他の総有者の任意的訴訟担当者として訴訟追行が可能となると考える。

ウ 提訴非同調者であるCは、甲土地はXの財産ではなく自己の財産であり、Yの求めに応じて売り渡したと説明している。Cはむしろ被告Yの立場に近いものとして提訴を拒絶し、Xの構成員らとの間で紛争が現在化している。したがって、Xの構成員らとCとの間で現在訴訟することが有効かつ適切である(②充足)。しかし、X及びCとの間には、①要件について争いがある。なお、Cと関係の近い相当数の構成員による反対者もCと同様の主張であると考えられる。

エ したがって、訴訟審理の結果、Xの構成員らに甲土地の総有権が認められる場合には、原告の構成員らは、Yらから授権を得ていたものとして、当事者適格が認められる。

第2 設問2

1 前段について

(1)  本件別訴は、重複訴訟の禁止(142条)に反し、訴え却下判決をすべきではないか。

ア 同条の趣旨は、被告の応訴の煩、訴訟不経済、既判力抵触のおそれといった弊害の防止にある。そこで、「訴え」にあたるかどうかは①当事者の同一性②審判対象の同一性を基準に判断すべきと考える。

イ 本件では、本件訴訟と本件別訴で原告と被告が入れ替わっているものの、訴訟不経済、既判力抵触のおそれといった弊害は残るため、当事者が同一であるといえる(①充足)。しかし、本件訴訟の訴訟物はXの構成員らの甲土地総有権であるのに対し、本件別訴の訴訟物はYのXに対する甲土地所有権に基づく返還請求権としての甲土地明渡請求権であり、訴訟物は異なる。しかし、本件訴訟において請求認容判決が出された場合、本件訴訟の既判力は本件別訴に及ぶため、既判力抵触のおそれがある。したがって、重複訴訟禁止の趣旨が妥当し、審判対象が同一であるといえる(②充足)。

(2) よって、裁判所は、本件別訴を却下すべきであるとも思える。しかし、本件訴訟は確認訴訟であることから、Yは執行力のある判決を得ることができないこととなり、妥当でない。

ア そもそも、Yが本件別訴を反訴として提起した場合には、被告の応訴の煩、訴訟不経済、既判力抵触といった弊害が妥当せず、重複訴訟の禁止に反しないと考える。

イ そこで、裁判所としては、本件別訴を本件訴訟と弁論併合(152条)をするなどして、両事件を一緒に処理できるようにすべきであると考える。

ウ 以上より、裁判所は、本件別訴を本件訴訟へ弁論併合すべきである。

2 後段について

(1) 本件後訴には、本件前訴に生じた既判力が作用しない。

ア 前訴確定判決の既判力が後訴に作用するかどうかは、前訴確定判決について生じる既判力と後訴訴訟物が同一・先決・矛盾のいずれかの関係にある場合か否かによって判断する。

(ア) 既判力とは、確定判決の判断に与えられる通有性ないし拘束力をいう。そして、既判力の物的範囲(「主文に包含するもの」)は、審理の簡易化・弾力化の観点から、原則として訴訟物にのみ生じる。また、既判力は、原則として当事者との間で(115条1項1号)、事実審の口頭弁論終結時を基準として生じる(民執35条2項参照)。

(イ) 本件前訴の訴訟物は、X構成員らの甲土地総有権であるところ、本件前訴の事実審口頭弁論終結時に、XY間において、かかる総有権の不存在に既判力が生じる。

イ 本件後訴の訴訟物は、YのXに対する甲土地所有権に基づく返還請求権としての甲土地明渡請求権であるところ、本件前訴既判力と同一でない。また、本件後訴訴訟物は、Xの構成員らに甲土地総有権がないことを前提としないため先決関係にないし、Xの構成員らに甲土地総有権がないことと矛盾しないため矛盾関係にもない。

ウ したがって、本件前訴に生じた既判力は、本件後訴に作用しない。

(2) 以上より、裁判所は、自由な心証に基づいて本案判決をすべきである。

以上