法律解釈の手筋

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令和4年度 予備試験 商法 解答例

問題

問題文は、こちら

解答例

第1 設問1

1 第1に、Dは、Cに対して、本件取引が甲社のCに対する利益供与(120条1項)にあたるとして、120条3項に基づく2億円の返還請求をすることが考えられる。

(1) 本件取引は、「利益の供与」にあたるか。

ア 同項の趣旨は、株主の権利を経営陣に都合の良いように操作する目的で会社財産が浪費されることを防止し、会社経営の公正性・健全性を確保する点にある。そこで、会社が相当な対価を得てした利益供与であっても、経営陣に有利な株主権を行使することの見返りとして取引をして株主の権利の行使に関して供与したと認められる場合には、「利益の供与」にあたると考える。

イ 本件取引は、本件土地の適正対価である2億円で甲社が本件土地を購入している。しかし、本件取引の経緯としては、甲社の代表取締役Aが甲社株主Cに対して本件土地を買い取ることができない旨を告げたところ、Cから今後の対応について甲社株主Dに相談すると言い出されたものである。AはDと対立関係にあり、CとDが協調して行動することをおそれたため、本件土地の買取りを再検討し、本件取引に至っている。以上からすると、甲社は、CがDと協調して株主権を行使しないようにし、甲社に有利な株主権を行使することを求めて本件取引を行ったといえる。

ウ したがって、本件取引は「利益の供与」にあたる。

(2) よって、Dのかかる請求は認められる。

2 第2に、Dは、A、B及びEに対して、120条4項に基づく2億円の支払請求をすることが考えられる。

(1) A、B及びEは、本件取締役会決議に賛成をしており、「利益の供与をすることに関与した」といえる。

(2) 確かに、B及びEについては、AとCとの間のやり取りについて認識をしておらず、また、本件取引も適正な対価である2億円にて売買をしている以上、本件取引が利益供与であることについて過失がなかったとも思える。しかし、以前の取締役会において、本件土地に倉庫を建設するより不動産業者から提案された土地に倉庫を建設した方が円滑に商品を出荷することが可能となることから、本件土地の買取りを見送るとの結論に達している以上、B及びEとしては、本件土地を買い取るというAの再提案について、疑うべき理由があったといえる。

したがって、B及びEについても、「職務を行うについて注意を怠らなかった」とはいえない。

(3) よって、DのA、B及びEに対する請求は認められる。

3 第3に、Dは、A、B及びEに対して、任務懈怠を理由として、423条1項に基づく損害賠償請求をすることが考えられるが、本件取引は適正対価による取引であって、甲社には何らの「損害」も発生していない。したがって、Dのかかる請求は認められない。

第2 設問2

1 Aらは、本件提訴請求の相手方であるFは、本件提訴請求より前に乙社の取締役となったことから甲社の監査役ではなくなったとして(335条2項)、本件提訴請求が「株式会社」に対する請求でないため違法である(847条1項、386条2項1号)、と主張することが考えられる。

(1) Fは、乙社の取締役となることによって、甲社の監査役の地位を喪失するか。監査役が兼任禁止規定(335条2項)に違反した場合の効果が問題となる。

ア 同項の趣旨は、監査役が株式会社又はその子会社の取締役等になることは、監査役としての適正な行使を期待し難い点にある。かかる趣旨からすれば、監査役の地位を喪失するとまで考える必要はなく、その後の監査が無効になれば足りる。

そこで、監査役が兼任禁止規定に違反した場合、監査役の地位を喪失しないものの、その後の監査は無効になると考える。

イ 本件では、Fは、甲社の完全子会社である乙社の取締役に選任されている。

ウ したがって、Fのその後の監査は無効となる。

(2) よって、本件提訴請求をFが受領したことは、無効であり、「株式会社」に対する請求とはいえない。なお、Fは監査役の地位を喪失してはおらず、単に本件提訴請求の受領が無効となるにすぎないため、権利義務監査役(346条1項)としても本件提訴請求の受領をすることはできない。

2 以上の帰結は、Dは、本件提訴請求を適法になし得るためには一次監査役の選任申立て(346条2項)をして、当該一時監査役に提訴請求をしなければならなかったということになる。しかし、本件提訴請求時点においてFが監査役の兼任禁止規定に反していることをDが見抜くことは困難であったといえる。それにもかかわらず、本件訴えを不適法却下して、再度Dに本件提訴請求を行わせるのは迂遠であるし、訴訟不経済でもある。

(1) そもそも、提訴請求の趣旨は、会社に責任追及をすることの要否及び当否について検討する機会を与える点にある。

(2) そこで、株主代表訴訟提起後に提訴請求が適法になされた場合には、当該趣旨を全うすることができ、かつ、会社は共同訴訟参加による訴訟参加が可能であるため(849条1項)、提訴請求の瑕疵は治癒されると考える[1]

3 以上より、本件提訴請求は原則として違法であるが、Fが、本件訴えの提起後に、改めて一時監査役を選任した上でその者に提訴請求をした場合には、瑕疵が治癒される。また、裁判所としては、かかる瑕疵治癒のために、弁論を事実上停止する等の措置をとることが適切である。

以上

 

[1] 大阪高判2004年(平成16年)12月22日判タ1172号271頁参照。これに対し、東京地判1992年(平成4年)2月13日判タ794号218頁は、事後的な提訴請求に応じて会社が訴えを提起しても二重起訴にあたるとして訴えが却下されるおそれがあることを理由に、却下している。