法律解釈の手筋

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東大ロー期末試験 上級民事訴訟法 2017年度(高田裕成問) 解答例

 

解答例

 

第1 第1問

 1 まず、釈明権の前提として、所有権確認の訴えと共有持分権の訴えの関係が問題となる。この点について、共有持分権の法的性質は、複数の所有権が併存し、相互に制約している性質を有するものであるところ、実体的な包含関係があるとの考え方がある。

   そうだとすれば、裁判所はXのYに対する所有権確認の訴えにおいて、Xが共有持分権を有することを確認する質的一部認容判決をすることができると考える。なぜなら、原告は全部棄却よりも一部認容判決を望むはずであり、かつ、実体法上包含関係にあるレベルでの一部認容判決ならば被告に不意打ちを与えることもなく、処分権主義(246条)に反することがないからである。また、かかる判決に必要な事実もYの不利益陳述によって弁論に上程されており、弁論主義にも反しない。

   もっとも、かかる判決をすることは、当事者において想定していない法律構成によって判決をすることになりかねず、XYに不意打ちを与えるおそれがある。そこで、裁判所は、かかる法的観点についてXに釈明し、Xに本件建物を建築したのがXの父Cであることを主張させ、Yにかかる主張に対する抗弁事実を主張させるようにすべきである。

 2 次に、実体法上包含関係にあるとしても、共有物の利用管理等については、単一の所有権等とは異なる種々の制約があり、単純な分量的一部とはいえないとの考え方がある。このような考え方からは、被上告人らが持分権の取得原因事実を先行的に陳述しているからといって、裁判所が、上告人に何らの釈明も求めることなく、直ちに所有権等の分量的一部として共有持分権の限度でこれを認容してよいということにはならないと考えられる。

   そこで、裁判所は、Xに対し共有持分権確認の訴えを追加的に変更する(143条1項)旨の釈明をすべきである。

第2 第2問

 1 設問1

   まず、X2は争っている以上、X2との関係で何らの効果も生じないのは明らかである。

   次に、X1との関係であるが、固有必要的共同訴訟では、法律上の合一確定の要請から、共同訴訟人の1人の訴訟行為は全員の利益においてのみその効力を生ずる(40条1項)。

   共同原告のX1のみが、被告Yの主張した抗弁事実について認めて争わない旨の陳述をすることは、自白にあたり、もし仮にかかる自白が認められると、弁論主義第2テーゼによって裁判所拘束力が生じ、かかる事実が判決の基礎とされる。しかし、抗弁事実が判決の基礎とされることは請求した権利の発生を消滅・障害・阻止することになり、共同原告に不利である。

したがって、X2が争っている以上、X1との関係においても、かかる自白によっては何らの効力も生じない。

 2 設問2

   固有必要的共同訴訟では、法律上の合一確定の要請から、共同訴訟人の1人が上訴すれば、全員が上訴人となると考える[1]

   本件では、X1の控訴によって、X1及びX2のYに対する請求が控訴審に移審し、X1及びX2が控訴人になると考える。

 3 設問3

   まず、X2との関係で訴えの取下げが何らの効力も有しないことは明らかである。

次に、X1との関係である。

訴えの取下げは、遡及的に訴訟係属が否定される(261条1項)ところ、かかる効果を認めると提訴共同の必要のある固有必要的共同訴訟に反することになる。そこで、共同訴訟人全員で訴えの取り下げをしない限り、訴えの取下げをした共同訴訟人との関係でも、何らの効力も生じないと考える[2]

本件では、X2は訴えの取下げをしていない。したがって、X1との関係でも、訴えの取下げは何らの効力も有しない。

第3 設問3[3]

 1 まず、相殺の抗弁が前訴において時機に遅れた攻撃防御方法として却下されたことにより実体法上相殺に供した債権が消滅し、かかる相殺の抗弁は理由がないことにならないか。

 (1) 訴訟上の相殺の抗弁について、その法的性質は訴訟行為と私法行為が併存したものと考えられるが、かかる法的性質は、相殺の抗弁が却下された場合の私法上の効果について論理的必然の結論を提供しない。

    そして、訴訟上の紛争解決のプロセスという点から当事者の意思を考慮すれば、訴え却下や取下げ、相殺の抗弁自体の却下があった場合にはその意思表示を撤回するものとして、実体法上も相殺権が行使されたと考えるのが妥当である[4]

 (2) 本件では、相殺の抗弁自体が却下されており、実体法上も相殺権が行使されたと考えられる。

 (3) したがって、相殺の抗弁によって実体法上かかる債権が消滅したことにはならず、かかる理由によって相殺の抗弁が認められないことにはならない。

 2 次に、そうだとしても、相殺の抗弁を後訴において主張することは、前訴既判力に反し、遮断されないか。

 (1) 既判力とは、前訴確定判決の後訴での通有性をいう。趣旨は紛争の一回的解決という制度的要請にあり、その正当化根拠は、紛争の一回的解決にある。

    そして、かかる既判力が後訴に作用するかどうかは、前訴既判力と後訴訴訟物を比較して、①同一②先決③矛盾のいずれかの関係にある場合に作用すると考える。

 (2) 前訴既判力は、XのYに対する売買契約に基づく代金支払請求権の存在に生じ(物的範囲)、それが前訴事実審口頭弁論終結時に生じ(時的範囲)、XY間でのみ及ぶのが原則(人的範囲)である。

    そして、後訴はYのXに対する請求異議の訴えであり、かかる訴訟物は前訴既判力と矛盾関係にある。

 (3) かかる既判力によって、相殺の抗弁が遮断されるか。

   ア 裁判所は、前訴既判力に矛盾抵触する当事者の主張を排斥しなければならない(遮断効)。そして、確かに相殺の抗弁は前訴既判力と矛盾抵触する事由であり、なおかつ前訴において主張可能である。しかし、相殺の抗弁は前訴訴訟物たる権利関係に内在付着する瑕疵ではなく、それ自体訴訟物となり得るものである。そして、相殺の抗弁を主張することは実質敗訴にほかならず、前訴で主張することが期待できない。

     そこで、相殺の抗弁は後訴において遮断されない。

   イ 本件においても、Yの相殺の主張は既判力によって相殺されない。

 3 以上より、Yは相殺の主張をすることによって請求異議の訴えを根拠づけることができる。

以上

 

[1] 高橋概論305頁参照。

[2] 高橋概論306頁参照。

[3] 同様の問題として、『ロースクール演習 民事訴訟法[第2版]』(法学書院、2018)問題24、平成24年度(平成23年9月/平成24年入学)慶應ロー入学試験問題参照。

[4] 新堂467頁、高橋概論147頁参照。