この記事は、「独立当事者参加の手筋(1)-制度趣旨と立法の過誤-」の続きである。
0.事例
【事例1】(対物訴訟事例)
XがYに対し甲土地の所有権の確認を求める訴えを提起したのに対し、甲土地の所有権を主張するZが、甲土地の所有権の確認を求める請求をX及びYに立てて権利主張参加した。
【事例2】(94条2項事例)
XがYに対して売買契約に基づく移転登記手続請求訴訟を提起したが、ZはYの手元にある登記は不実の登記であり真の所有者は自分だと主張してXY訴訟に権利主張参加した。
【事例3】(二重譲渡事例)
XがYに対して売買契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟を提起したが、Zも同じくYに所有権移転登記手続請求訴訟を提起してXY訴訟に権利主張参加した。
【事例4】(債権者取消事例)
無資力のYがXに不動産を贈与したとして、XがYに対して贈与契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟を提起した。これに対してYに対し金銭債権を有するZは、XY間贈与は詐害行為であるとして、Xに対し所有権移転登記を受ける地位にないことの確認訴訟を提起してXY訴訟に詐害防止参加した。
【事例5】(抵当権侵害事例)
XがYに対して甲土地の所有権移転登記抹消登記請求訴訟を提起し、Yの登記はXの委任状を偽造してなされた無効なものであると主張したが、Yはそれを争わないでいる。Zは、Yの債権者であり、甲土地に抵当権設定登記を受けているところ、Xに対してXの甲土地所有権不存在確認訴訟を提起して、詐害防止参加した。
4.要件論
ⅰ 詐害防止参加(47条前段参加)
以上の学説からの帰結について、要件論と効果論(審判の規律)に分けて整理する。まずは詐害防止参加の要件についてである。
(1)判決効説(三木・山本(和)・新堂)
第1に、否認説の立場から、40条準用が正当化されるのは類似必要的共同訴訟のように判決効が拡張される場合であると捉え、既判力や反射効などが及ぶ場合に限るとする見解である[1]。判決効説によれば、【事例4】に詐害防止参加が認められるかどうかは、ZにXY訴訟の反射効が及ぶかどうかという反射効理論によって左右されることになる。通説とされる兼子理論は【事例4】のZにXY間訴訟の反射効が及ぶことを肯定するため、【事例4】で詐害防止参加が認められることになる[2]。
(2)詐害意思説(高橋)
第2に、現在の通説・判例[3]である。「権利が害される」とは、当事者がその訴訟を通じて参加人を害する意思をもつ場合を意味するとされる。この場合、【事例4】及び【事例5】においても詐害防止参加が認められることになる。
(3)詐害行為取消権補完説(畑・菱田)
判決の効力と結びつけず、独立当事者参加を、詐害行為取消訴訟を補完するものとして位置付ける見解である[4]。
詐害行為取消権補完説によれば、反射効理論と切り離して【事例4】に詐害防止参加を認めることができると思われる*⁸。
*8 しかし、判決効と切り離して詐害防止参加を肯定する場合、なぜ詐害防止参加が正当化されるかが問題となる。判決効と切り離して考えた場合、上述の参加人の不利益に着目した議論は主に権利主張参加の文脈においてなされている議論であるが、権利実現の困難性という参加人の不利益が詐害防止参加との関係でも正当化根拠となるのではないかと思われる。【事例4】でいえば、反射効を否定する場合、Zとしては、XY間訴訟の判決確定後にXに対して詐害行為取消訴訟を提起していくことができ、かつそれによって自己の目的を達成できる。しかし、それでは*7で指摘したような権利実現の困難性が問題となるため、XY間訴訟に介入していく必要が認められるのである。他方、【事例5】では、どうか。【事例5】の場合、XがYに勝訴したとしても、XY間訴訟の既判力ないしその他判決効は第三者Zには及ばない。そのため、XがZの抵当権設定登記を抹消するためには、Zの承諾が必要である(不動産登記法68条1項)。もし仮にZが任意に承諾をしない場合、XはZに対し承諾請求訴訟を提起して、Zにも勝訴する必要がある。したがって、XY間訴訟によってZの抵当権が侵害されるという権利侵害は起き得ない以上、権利実現の困難性という趣旨が妥当しないため、詐害防止参加は認められない。
このように、権利実現の困難性を権利主張参加の正当化根拠と捉える見解は、権利主張参加と詐害防止参加の連続性を見出すものであるように思われる。(もしくは、権利主張参加を限定肯定説のように正当化したとしても、正当化された範囲の権利主張参加は詐害防止参加で全てカバーされているものである以上結局存在意義がない、ということを意味することになるのかもしれない。)[5]。
ⅱ 権利主張参加(47条後段参加)
権利主張参加の一般的定義としては、参加人の請求およびそれを理由づける権利主張が本訴の請求またはそれを理由づける権利主張と論理的に両立しない関係にあることを意味するとされている。しかし、かかる定式で権利主張参加がどこまで認められるかについては(特に【事例3】の場合を中心に)、論者によってかなりズレが生じている。
そこで、ここでは上述の独立当事者参加の正当化根拠を巡る見解の対立からそれぞれどのような場合に権利主張参加が認められるかを記述する。
(1)無限定説(全面肯定説からの帰結)
前述の全面肯定説によれば、裁判所からのお墨付きによる不利益が生じる場合には権利主張参加が認められることになる。【事例1】の場合はもちろん、【事例2】【事例3】の場合も裁判所のお墨付きによってZに事実上の不利益が及ぶことから、独立当事者参加が認められることになる。この論者は、上記の請求の非両立性のみならず請求の趣旨の非両立があれば足りる、と定式化する。
(2)権利実現困難性説(限定肯定説からの帰結)
限定肯定説によれば、上でも論じたように、【事例1】ではXY間でXに甲土地の所有権が有することを確認されるにすぎず、実際に登記がYからXに移転されるというわけではない。したがって、権利実現の困難性が問題となることはなく、権利主張参加が認められないことになる。他方、【事例2】【事例3】では、登記がYからXに移転してしまうと、権利外観法理によってZが後の訴訟でXに敗訴する可能性が生じる。したがって、2つの事例では権利実現の困難性が認められ、権利主張参加が認められることになる。
(3)請求非両立説(立法の過誤説の帰結?)
立法の過誤説によれば、そもそも権利主張参加が40条を準用していることを正当化できない以上、【事例1】ないし【事例3】において権利主張参加を認めないのが素直であるように思われる。しかし、立法の過誤説の論者は、通説の請求の非両立性という定式化を維持し、40条準用を否定する解釈論を一応提示している[6]。合一確定の必要性は排除した上で、当事者参加の手段として機能させることを指向しているのかもしれない。確かに、当事者参加を認めなくても本訴請求への参加としては補助参加で充分であるようにも思えるが、権利主張参加によれば参加人自身が請求を立てていくことができるので、事実上の合一確定がなし得るというメリットはあるのかもしれない。したがって、【事例1】【事例2】では、権利主張参加が認められ、【事例3】では権利主張参加が認められない。
[1] 三木・前掲注(1)(訴訟構造)243頁参照。
[2] 兼子一『民事訴訟法体系』(酒井書店・1965年)413頁参照。
[3]最判昭和34年2月12日
[4] 畑・前掲注(1)144頁参照。菱田・前掲注(1)714頁参照。高橋・前掲注(1)(重点講義・下)503頁は、この畑説及び菱田説も判決効説として紹介している。しかし、菱田は事例4を本来型であるとして、判決効とは別の観点から詐害防止参加の可否を論じているように読める。畑も同様に判決効とは別に詐害要件が認められるならば詐害防止参加を肯定してよい旨を説かれる(と読めるが、正直同畑論文の読み方はよく分からない。)。もっとも、両論文共に結論を留保し、私見としているわけではないことに注意。
[5] 畑・前掲注(1)148頁注(58)の高田発言の真に意図するところは不明であるが、本文と同様の指摘をするものであるとすれば、全くもって賛成するところである。
[6] 三木・前掲注(1)243頁、山本・前掲注(1)453頁等参照。もっとも、三木については、三木自身が請求非両立性を維持しているという訳ではないように読める。