法律解釈の手筋

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一橋ロー入試 平成30年度(2018年度) 刑法 解答例

解答例

第1 第1問

 1 Xの罪責

 (1) Xが、Vの右腿を包丁で突き刺し、その後殺意をもってVの左胸部を包丁で突き刺し、Vを死亡させた一連の行為に殺人罪(199条)が成立し、過剰防衛(36条2項)として任意的減免となる。

 (2) Xの上記行為は、Vの右腿や左胸部という人体の枢要部を、刃渡り25センチの出刃包丁という殺傷能力の高い凶器を使って力いっぱいに突き刺すという危険な行為であり、人の生命侵害を惹起するに足りる。したがって、「人を殺」す行為にあたる。

    Vは心臓停止により死亡しており、Xの上記行為との間に因果関係が認められる。

 (3) 故意(38条1項)とは、構成要件事実に対する認識・認容をいうところ、Xは、上記行為を行っていることを認識している。また、Xの上記行為は生命侵害惹起の危険が非常に高い行為であることにかんがみれば、Xが上記事実を認識して同行為に及んでいる以上、認容もあったといえる。したがって、Xに殺人罪の故意が認められる。

 (4) もっとも、Xの上記行為に過剰防衛(36条2項)が成立し、Xには任意的減免が認められる。

   ア まず、Vの右腿を突き刺す行為と、Vの右胸部を突き刺す行為は、別個の行為であり、第2行為には正当防衛も過剰防衛も成立しないとも思えるが、両行為は一連一体の行為といえ、全体として正当防衛判断をなし得る。

   (ア)  正当防衛の成立する第1暴行と第2暴行が一連一体の行為といえる場合には、全体として正当防衛判断を行うことができると考える。そして、一連の行為と認められるかは、第1行為と第2行為の時間的場所的連続性、行為態様の連続性及び防衛的心理の連続性の観点から判断すると考える[1]

   (イ) 本件では、第1行為と第2行為が非常に近接した時間に、かつ同一の場所で行われている。また、その行為の態様も、包丁を利用した行為である点で同様である。Vは第2行為の前にも、「何をしやがる。」と言いながら、Xに近づいてきており、なお侵害が継続している。そして、XはYだけでなく自らの身の危険を感じて恐怖感を抱き、上記第2行為に及んでいるため、侵害継続中の対抗行為に対する防衛意思が連続しているといえる。

   (ウ) したがって、上記両行為は一連一体の行為であるといえる。

   イ X及びYは、Vからの侵害を予期し、出刃包丁を用意しているものの、VがYに対し暴行を加えた点について、なお「急迫」性は認められる。

   (ア)  36条1項の趣旨は、急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容した点にある。

      そこで、同条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には侵害の急迫性の要件を充たさないと考える[2]

   (イ) 本件では、XとVは従前から知り合いの関係にある。また、Vは「待っていろ」と電話を切っていることからすれば、Xの家に来てXに暴行を加えることが予想される。それに対して、Xが用意していた凶器が殺傷能力の高い包丁であることからすれば、Xは、侵害を予期し積極的加害意思を有していたとも思える。

しかし、本件では侵害予期がそれほど具体的にできていたとはいえない。また、VはXの自宅に来ており、Xにとって逃げるなどの侵害回避が容易ではなかったし、その場にとどまる相当性もあった。さらに、Xは最初から包丁を持ってVに対し向かっていったわけではなく、YがVを落ち着かせようとして包丁を持たずにX宅から出ていくと、Vから暴行を加えられたため、これに対抗するために、Xは上記行為に及んだのである。そうだとすれば、対抗行為の準備も十分であったわけではないし、予期した侵害と実際になされた侵害が被害者の点で異なる。

      以上にかんがみれば、本件では、Xが対抗行為に出ることが許容されるといえる。

   (ウ) したがって、「急迫」性が認められる。

   ウ Vは、Yに対し暴行を加えており、「不正」の「侵害」が認められる。また、XにはYを防衛する意思もあるため「防衛するため」にあたる。

   エ しかし、本件状況は2対1である上、Xの利用した凶器及び、突き刺した部位にかんがみれば、より態様の弱い行為によって侵害回避が可能であったといえ、「やむを得ずにした」とまではいえない。

   オ したがって、Xには過剰防衛が成立するにとどまる。

 (5) よって、Xの上記行為に殺人罪が成立し、かかる罪責を負う。なお、後述のとおり、Yと傷害致死罪の限度で共同正犯が成立する。

2 Yの罪責

 (1) XがY共謀の上、第1、1の行為に出た点について、Yに傷害致死罪の共同正犯(60条、205条)が成立する。

 (2) Yは、実行行為を行っていないものの、傷害罪の共謀共同正犯の客観的構成要件を充足する。

   ア 共犯の処罰根拠は、正犯者を介して法益侵害を惹起した点にあり、一部実行全部責任の処罰根拠は、各犯罪者が役割分担を通じて犯罪達成のために重要な寄与ないし本質的な役割を果たした点にある。

     そこで、①共謀②共謀に基づく実行行為が認められる場合には、共謀共同正犯の客観的構成要件を充足すると考える。

   イ 本件では、XとYは暴力沙汰に備えておく趣旨で出刃包丁を準備していたのであるから、Vを傷害させることについて黙示の意思連絡が認められる。また、YはXを助力するためにXの自宅に来ている上、Yは暴力団の団員でもあることからすれば、Xを心理的に幇助するという重要な役割を果たしている。さらに、以上にかんがみれば、YはVに対する行為を自己の犯罪として行う正犯意思も認められる。したがって、XとYにはXの上記行為時に、Vに対する傷害罪について共謀が認められる(①充足)。Xの上記一連一体の行為は、かかる共謀に基づくものである。また、Xは殺意を有していたものの、殺人罪と傷害罪は構成要件的重なり合いが認められ、Xの行為は傷害罪の実行行為とも評価できる(②充足)。

   ウ したがって、Yに共謀共同正犯が成立する。

 (3) YにはVに対する傷害の故意がある。また、致死結果について過失は不要である。

 (4) よって、Yには、傷害致死罪の共同正犯が成立し、かかる罪責を負う。  

第2 第2問

 1 Xが「実は、今日心水玉を持って帰るか、代金を回収するかしないと、俺は会社を首になってしまう。そればかりか、B に粛清されるかもしれない。どうか俺を助けると思って、心水玉を返してくれないか。」と泣きながら懇願した行為に、詐欺未遂罪(250条、246条1項)が成立する。

 (1) Cが「心水玉食堂」で利用している心水玉(以下「本件心水玉」という。)は、Xが営業権限を有するA社所有の財物であるものの、なお「他人の財物」(251条、、242条)にあたる。

   ア 242条の趣旨は、自力救済禁止の原則による事実的財産秩序の保護にあるところ、保護法益は占有権であると考える。そこで、行為者自身が所有する財物であっても他人が占有している場合には「他人の財物」とみなされると考える。

   イ 本件心水玉は、Cが「心水玉食堂」で利用しており、他人が事実上支配し、占有しているといえる。

   ウ したがって、「他人の財物」にあたる。

(2) 「人を欺」く行為とは、被害者の財産交付の判断の基礎となる重要な事項を偽る行為をいうところ、Xが会社を首にされたり、Bに粛清されたりしなければ、Cは本件心水玉をAに返還することはなかったはずであるから、Xの上記行為は、Cの財産交付の判断の基礎となる重要な事項を偽っている。

   したがって、「人を欺」く行為にあたる。

 (3) 「交付させた」といえるためには、占有移転が必要であるところ、本件では、CはXに返却する前に本件心水玉を粉々に砕けさせてしまっているため、CからXへの占有移転が認められない。

 (4) Xの上記行為が自救行為として違法性阻却が認められないかが問題となる[3]が、公的機関の保護を求める余裕がないとはいえないし、即時に行わなければ権利実現が困難になるといった事情もないため、認められない。

 (5) よって、Xの上記行為に詐欺未遂罪が成立する。

 2 Xが、いきなりC の店のテーブルをどんと強く叩き、「ならば今すぐ代金を支払ってもらおう。返さなかったら、店がどうなっても知らないぞ。うちの会社には、すぐに手が出る若い衆もいるんだぞ。何なら今から呼び出そうか。」と語気鋭く申し向け、Cに20万円を交付させた行為に恐喝罪(249条1項)が成立する。

 (1) Xが営業権限を有するAはCの債権者であるものの、その権利行使の方法は一般的に許容される態様を欠き、「恐喝」にあたる。

ア 「恐喝」とは、暴行又は脅迫により被害者を畏怖させることをいう[4]。そして、脅迫とは、相手を畏怖させるに足る害悪の告知をいう[5]。そして、債権者であっても、権利行使の方法が社会通念上一般に許容すべきものであると認められる場合でない限り、「恐喝」にあたる[6]

イ 本件では、XはCの店のテーブルを叩くという間接的な有形力行使を使用している。また、「店がどうなっても知らないぞ」や「すぐに手がでる若い衆もいる」などと、Cの店やCに危害を与えることを示唆する発言をしており、害悪の告知にあたる。また、以上のような行為及び発言は、人を畏怖させるに足りる。そして、かかる行為や発言は、債権者であったとしても許容される催告の限界を超えている。

ウ したがって、「恐喝」にあたる。

 (2) Cは、Xの今まで見せたことのないような激しい怒りに畏怖し、20万円を「交付」している。

 (3) よって、Xの上記行為に恐喝罪が成立する。

 3 Xの上記行為によって、心水玉の残代金30万円を来週に支払う旨約束させた点については、具体的かつ確実な利益移転であるとはいえず「財産上不法の利益」(249条2項)にはあたらないため、かかる点に2項恐喝罪は成立しない。

 4 以上より、Xの一連の行為に、①詐欺未遂罪②恐喝罪が成立し、両者は本件心水玉に対する財産侵害という点で共通であるため、包括一罪となる。

以上

 

[1] 橋爪連載(総論)・第4回112頁参照。

[2] 最判平成29年4月26日参照。考慮要素は①行為者と相手方との従前の関係②予期された侵害の内容③侵害の予期の程度④侵害回避の容易性⑤侵害場所に出向く必要性⑥侵害場所にとどまる相当性⑦対抗行為の準備の状況⑧実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同⑨行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容、等。

[3] 自救行為が認められる要件は、①公的機関の保護を求める余裕がないこと②即時に行わなければ権利実現が困難になること③権利回復手段としての必要性・相当性④自救の意思である。最決昭和46年7月30日参照。

[4] 山口青本・324頁。

[5] 山口青本・324頁。

[6] 最判昭和30年10月14日参照。