法律解釈の手筋

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【憲法編】司法試験・予備試験のための有益な基本書等【厳選】

※2023年6月6日更新。

1.はじめに

ここでは、受験生がよく使用している憲法の基本書や演習書について、個人的な書評を交えながら、紹介する。

まず前提として、僕は人にはそれぞれに合った勉強法があると考えている。基本書等を読まなくても予備校教材だけで予備試験に1年程度で合格できる人もいれば、基本書等や演習書等を通じて深い理解をすることで司法試験に合格できる人もいる。

僕はどちらかといえば後者側の人間だった。予備校のような論点を紹介する教材だと、どうしても論点の文脈が分からなかったりするが、基本書では、原理原則から説き起こして各論点を説明するため、スッと入ってくる感じがあった。

これから紹介する基本書等は、そのようなタイプであった僕が紹介する基本書等になるため、予備校教材だけで十分合格できるタイプの受験生が無闇に手を出すことは、全くお勧めしない。また、仮に手を出すにしても、無闇やたらに全ての書籍を購入するのは、消化不良を起こし、弊害の方が大きくなるおそれがある。自分のキャパシティとの兼ね合いは非常に大事であることに注意してほしい。

今現在予備校教材でよく理解できていない部分がある方や成績に伸び悩んでいる方にとっては、もしかすると最良の教材になり得る。立ち読みからでも良いので、一度気になった書籍を読んでみることを勧めたい。

 

2.基本書

(1) 芦部憲法

憲法 第七版

2019年3月出版。488頁。

芦部先生の憲法の基本書に、弟子である高橋教授が各項の文末に追補していく形式で構成されている基本書である。正直、今の時代に理解のためにこの基本書を通読する必要性は高くないと個人的には考えているが、従来から「まずは芦部憲法」という声を多く聞くため、念のため紹介するにとどまる。

もっとも、短答式試験との関係では同書はかなり役立つのではないか、と僕は考えている。なぜなら、短答の統治分野では、原則として芦部憲法に記載されている箇所から出題されている印象を受けるからである。僕は、予備試験の短答式試験との関係で、芦部憲法の統治分野だけは何回も読んでいたし、短答の問題を解く度に同書に戻り、読み返していた。必要最低限の記載であるため、芦部憲法を読み返すだけなら時間的にも労力的にもそこまで負担ではなかったし、この勉強法で統治分野の点数を安定して取れるようになった。もし統治で躓いている受験生がいたら、ぜひ勉強法の参考にしてみてほしい。

(2) 佐藤憲法

2020年9月出版。726頁。

統治分野を完璧にしたければ佐藤憲法、とよく言われるが、それを考慮してもオーバースペックだと思う。短答レベルなら芦部憲法の統治部分だけで十分だし、佐藤憲法ほど詳しく統治を勉強しても論文には役立たない。統治分野に不安を抱えている方は一度手に取ってみても良いと思うが、個人的にお勧めしない。他の科目や分野に時間を使うべきだと思う。

(3) 新4人組

2023年3月出版。548頁。

2020年9月出版。488頁。

「最速で司法試験・予備試験に合格するための基本書等」でもお勧めした新4人組。人権と統治の両方が刊行されている基本書で同書の右にでるものはないと思われる。ただ、2冊になるとかなり分厚くなってきてしまうため、通読にはしんどくなってくる可能性がある。そういう場合は、統治分野は上記の芦部憲法をメインに据えつつ本書は辞書的に用い、人権分野だけ本書を通読用に据えるというのはアリだと思う。

いずれにせよ、現状権威のある基本書で最も読みやすい基本書であると考える。

(4) 基本憲法

2017年2月出版。372頁。

この基本書の良い点は、設問や演習問題が各章ごとに掲載されており、具体的な事案を念頭に各人権分野を理解することができる点である。演習問題の解説も非常に分かりやすく、基本書の段階から問題を想定しながら学べる本書はまさに受験生のための基本書といえる。

基本書から実際の試験を念頭に学びたい者におすすめの一冊である。難点は、統治分野が未だ出版されていないため(著者の伊藤先生が、2023年には出版したいとおっしゃっているため、もしかしたら近いうちに出版されるかもしれない。)、人権と統治を同じ書籍で揃えたい方には不向きかもしれない。

(5) 憲法学読本

2018年12月出版。412頁。

400頁程度とコンパクトながらも、1冊で司法試験で問われる論点がまとまっているため、非常に使い勝手が良い。平等原則の説明などは、本書にしか記載のない分かりやすい説明もあり、受験生の頃に重宝した。本書1冊だとやや網羅性に欠けるおそれがあるものの、1冊で人権と統治を済ませたい方にはこの書籍がもっともお勧めである。

 

3.副読本

(1) 憲法上の権利の作法

2016年8月出版。298頁。

憲法上の権利を論証していく際の手順書。いってしまえば、憲法版の論証集(どちらかというと処理手順集、といった方が正確かもしれない。)のような位置づけであると理解していただくと分かりやすいかもしれない。三段階審査の体系の中に、日本の判例を位置づけ、日本版三段階審査を体系化したものである。

僕が受験生の頃は、本書を論証集としてここに情報を一元化していくのに使用していた。全ての人権の処理手順をまとめているため、論文式試験との関係では重要な一冊だと思う。

難点は、非常に読みづらいことである。正直今でも理解できない箇所があったりするなど、初学者にはかなりレベルの高い記載も多かったりする(例えば、私人間効力の国家の基本権保護義務論など。)。ただ、各人権の処理手順を抑えるには最良の1冊であるため、論文式試験の答案の型が定まっていない方は、ぜひ本書を読んでほしい。

(2) 事例問題起案の基礎

2018年5月出版。112頁。

網羅性には欠けるものの、憲法の答案の型を知る最初の手がかりとして、本書はとても有用である。

「最速で司法試験・予備試験に合格するための基本書等」でも記載したように、小山作法が難解で理解できない方は、まず本書を読んで答案の書き方を学ぶことを勧める。

(3) 憲法の地図

2016年4月出版。194頁。

判例をベースにした論証集(処理手順集)、というとイメージがわきやすいかもしれない。主要な判例を通じて、各人権の審査基準を分ける要素をチャート式にまとめてくれている。また各判例を一覧にして、重要な判旨をコンパクトに掲載してくれているのも非常に重宝する。

判例をベースに論証をしたい方にとっては、本書は非常に相性が良いと思う。ただ、そもそも「判例をベースに論証」をするのは初学者にとってはレベルの高い技法だと思うので、そういう意味では学習が進んだ者が本書を用いることになろうか。

(4) 憲法判例の射程

2020年8月出版。420頁。

憲法判例の理解のための1冊。「判例の射程」という言葉を聞いたことはあるが、結局どういうことか分からない、という受験生は多いと思うが、本書はそれをイヤというほど分かりやす解説してくれている。本書の登場は、受験生のレベルを飛躍的に高めるものでったと思う。

難点は第2版になり少し分厚くなってしまった点があげられるが、それでも十分通読できるボリュームであるし、これを通読することで憲法の理解は確実に深まるであろう。

副読本の中で何か1冊購入するとすればどれか、と聞かれれば間違いなくこの1冊を勧める。

(5) 憲法ガールシリーズ

2018年1月出版。252頁。

憲法ガールII

憲法ガールII

Amazon

2018年9月出版。224頁。

『憲法の地図』の著者である大島先生による新司法試験の解説本。

内容は詳細かつ高度であるが、新司法試験を解いた際は、ぜひ本書の問題解説を熟読しておきたい。文献引用も丁寧になされており、信頼性も十分である。

個人的にラノベ形式のような文章形式が苦手なのであるが、普通の学者の堅い文章が苦手という方にはむしろ本書のような形式はとっつきやすいかもしれない。答案例も載っているので、新司法試験の模範解答がどのような解答なのかを知る意味でも本書は非常に役立つと思う。他の書評等において、「答案例が出題趣旨や採点実感から外れている」との評価が散見されるが、この点はあまり心配しなくて良いと個人的には思う。

4.演習書

(1) 判例から考える憲法

2014年5月出版。304頁。

司法試験の問題形式が、いわゆる3者間形式から意見書形式へと変更がされてすでに数年が経過した。本書は以前の3者間形式に則った演習書ではあるが、その内容の精度は衰えていない。判例を実際の事例問題でどのように使っていくか・論証していくかを学ぶには、本書が絶対の一冊だと考える。

ただ、唯一の難点は、2014年から改訂がなされていないことにある。

平成27年以降の主要な判例をカバーできていないのはやや問題があるが、憲法はどちらかというと、判例の使い方を抽象的に学べれば他の問題にも応用可能であるので、最新判例は、判例集等でカバーしつつ、判例の実際の問題での使い方を本書で学ぶ、という風に使い分けをすれば何とかなるのではないかと考えている。

いずれにせよ、現時点で本書を超える演習書は他にないと思われる。ぜひ本書で憲法の論文式試験を完璧にしてほしい。

(2) 憲法の急所

2017年3月出版。440頁。

新司法試験と同じくらいの長文事例を掲載した演習書である。

前半で、憲法の人権の処理手順を総論的に解説し、後半から事例問題とその解説、という構成となっている。

解説も非常に分かりやすく、長文事例に慣れたい方にはお勧めの一冊である。もっとも、木村先生独自の少数説も多く、憲法の通説をしっかり理解していないと、いつの間にか木村説に染まってしまうおそれがある(木村説でしっかり論証ができれば良いであるが、おそらく木村説を一受験生が司法試験の現場で書くとなると、基本的理解をしていない、と評価されるリスクが大きい気がする。)。

そのため、基本的には、憲法の基本をしっかり理解した中級者以上の者が、さらに憲法の理解を深めるために利用する、というのが良いと考える。

(3) 憲法演習ノート

2020年4月出版。445頁。

比較的最近に改訂された人気の演習書である。

司法試験と同等かそれ以上のレベルの難易度の事例問題をベースに、解説と解答例が付されている。演習書の中では、一番難易度の高い演習書に位置づけられると思う。憲法の深い理解をしたい人、上位合格を目指したい人には、お勧めの1冊である。

また、判例から考える憲法が少し古くなってきてしまっている現状からすれば、判例から考える憲法よりも、改訂されたこちらの方にやや分があるようにも思われる。ただ、演習ノートは間違いなく難易度が高く、ややオーバースペック気味なので悩ましい…。

 

5.判例集

(1) 憲法判例百選

2019年11月出版。236頁。

2019年11月出版。228頁。

判例集で一番有名な判例百選シリーズである。主要な判例を全て網羅した、判例集である。最初に利用する判例集としては、本書が唯一であると思う。

憲法は、短答式試験でも論文式試験でも判例理解が非常に重要であるため、予備校生でも、さすがに判例百選くらいは辞書用にでも購入しておいた方が良いと考える。

(2) 精読憲法判例

2018年2月出版。676頁。

2021年5月出版。417頁。

タイトルのとおり、憲法の判例を「精読」していく判例集である。判例の掲載数は判例百選と比べてかなり少ないものの、各判例の判旨の引用が非常に長いのが本書の特徴である。憲法判例は、どうしても、判旨全体を読まないと、判例が結局何を言っているかが見えてこないことも多いところ、本書はまさに判例を精確に理解するための解説書といえる。

東大ローの時代に指定図書として購入したものであるが、非常に便利な判例集である。設問も秀逸であり、深く判例を理解したい方には絶好の一冊である。

 

6.おわりに

かなり多くの書籍を紹介させていただいたが、冒頭にも記載したように、決して全ての書籍を購入することを勧めているわけではないことに注意してほしい。僕も受験生の頃に全てを使用していたわけではない。

僕の書評を読んでいただいた上で、今の自分にとって必要な書籍はどれか、というのをしっかり吟味していただいた上で、各書籍を読んでみてほしい。

 

以上