法律解釈の手筋

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平成26年度 予備試験 行政法 解答例

解答例

第1 設問1

 1 実体法上の違い[1]

 (1) 占有許可申請を拒否する処分と理解する法律論の場合、許可要件を充たさない限り、不許可処分をすることが許される。

 (2) これに対して、占有許可の撤回処分と理解する法律論の場合、許可処分という授益的処分に対する不利益処分であるところ、直接明文の規定までは必要ないとしても、撤回するためには法律上の根拠が必要と考える。また、見解によっては、被処分者に帰責性がある場合及び相手方の同意がある場合に授益的処分の撤回が限定される可能性がある。また、被処分者に「特別の犠牲」を与える場合には損失補償(憲法29条3項)が認められる場合があり得る[2]

 (3) 以上より、後者の法律論の方がCの保護に厚く優れているという利点がある。

 2 行政手続法上の違い

 (1) 前者の場合、行政手続法(以下「行手法」という。)上、申請に対する処分(行手法第2章)に該当する。この場合、行政庁は審査基準を設け(行手法5条1項)、それを公にしなければならない(行手法5条3項)。また、行政庁は処分にあたって処分の理由を提示しなければならない(行手法8条1項本文)。

 (2) 後者の場合、行手法上、不利益処分に該当する。この場合、行政庁が処分基準を定めること及びそれを公にしておくことは努力義務となる(行手法12条1項)。他方、行政庁は処分にあたって理由を提示しなければならない(行手法14条1項)。また、本件拒否処分は許認可を取り消す不利益処分にあたるため、聴聞手続きを執らなければならない(行手法13条1項1号イ)。

 (3) 以上より、後者の方が聴聞手続きを義務とする点でCの手続保障に厚く、利点がある。確かに、前者は処分基準を定め、公にすることを義務とする点でCの保護に厚いとも思えるが、処分基準は通常設定されているため、後者の方がCに利点があると考える。

 3 行政事件訴訟法上の違い

 (1) 前者の場合、拒否処分を取り消してもCは占有を継続できないため、占用許可の義務付け訴訟(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条6項2号、37条の3第1項2号)及び占用不許可処分の取消訴訟(行訴法3条2項)を併合提起しなければならない(行訴法37条の3第3項2号)。

 (2) 後者の場合、拒否処分の取消訴訟(行訴法3条2項)を提起すればCとしては占有を継続できるところ、義務付け訴訟は不要となる。

 (3) 以上より、後者の方が義務付け訴訟を併合提起しなくて良い点で、Cにとって負担が軽いという利点がある。

第2 設問2 小問1

 1 漁港漁場整備法(以下「法」という。)39条2項によって判断する法律論は、「特定漁港漁業整備事業の施行又は漁港の利用を著しく阻害」ないし「漁港の保全に著しく支障を与える」ものでない限り、許可を「しなければならない」と規定しているところ、その規定振りから裁量が認められない。また、同条は、自由使用が原則であるはずの公共用物について「水産業の健全な発展及びこれによる水産業の供給の安定を図る」という法目的(法1条)のために許可制度という限定を付しているにすぎず、届出制度に近いものといえる。このような同条の趣旨からすれば仮に裁量が認められるとしてもそれは狭い範囲で認められるにすぎないといえる[3]

 2 これに対して、地方自治法238条の4第7項の定める基準に従って判断する法律論の場合、同項が許可することが「できる」との規定振りとなっていることから、裁量が認められると読める。同法244条2項が供用目的どおりの利用については「正当な理由がない限り住民が公の施設を利用することを拒んではならない」と規定していることとの対比からしても、同法238条の4第7項は、法令や条例が定める公の施設の供用目的以外の態様による公の施設を構成する財産の利用は要保護性が低く、供用目的による利用に劣後することにかんがみ、行政庁に広範な裁量を認める趣旨と考えられる。

 3 以上より、後者の法律論の方が、A県側に広範な裁量を認める点で適法になりやすいという利点がある。

第3 設問2 小問2[4]

 1 法39条2項に従って判断するか地方自治法238条の4第7項の定める基準に従って判断するかは、Cによる占用許可申請が法の目的内利用といえるかどうかによって決すると考える。

 2 本件では、Cは観光客などの一般利用者をターゲットとして飲食店の営業を継続し、2013年には客層の変化に対応するために内装工事も行っているところ、法1条の「水産業の健全な発展及びこれによる水産業の供給の安定を図る」という法目的とは無関係の利用に供し始めているといえる。そうだとすれば、Cによる占用許可申請は、法の目的外利用といえ、地方自治法238条の4第7項に立ち返って判断すべきである。

 3 よってA県側の上記の法律論は認められる。

以上

 

[1] 1についての解答作成にあたっては、大橋行政法Ⅰ・196頁以下参照。

[2] なお、後述のとおりCの土地利用を目的外使用と捉えた場合、目的外使用許可についての撤回は内在的制約であり補償を要しないとされている。最判昭和49年2月5日参照。

[3] なお、漁港漁業整備法39条2項に裁量が認められるかについては、橋本博之『行政法解釈の基礎——「仕組み」から解く』(日本評論社、2013年)100頁の応用問題を参照。

[4] 本問の解答作成にあたっては、山本・探求【12】を参考にした。