法律解釈の手筋

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令和3年度 予備試験 刑事訴訟法 解答例

問題文

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解答例

第1 設問1(以下、刑訴法は法名略。)

1 ①の逮捕は、準現行犯逮捕(213条、212条2項)として、適法である。

2 甲は、「左の各号の一にあたる者」にあたる。

(1) まず、甲は、「贓物」を「所持しているとき」(212条2項2号)にあたる。

ア 「贓物」とは、財産犯罪によって不法に領得された物をいう(刑法256条参照)。

イ 本件では、Pは、本件住居侵入、強盗傷人の被疑事実(以下、「本件被疑事実」という。)の被害品であるバッグについて、Vから特徴を聞き出しており、かつ、犯行現場の防犯カメラにおいて、被害品のバッグと特徴の一致するバッグを視認している。そして、甲は、①の逮捕時において、被害品と特徴の一致するバッグを所持していたところ、Pの認識において、当該バッグは財産犯罪によって不法に領得された物であるといえる。

ウ したがって、甲は「贓物」を「所持しているとき」にあたる。

(2) 次に、Pが甲に対して、「I署の者ですが、話を聞きたいので、ちょっといいですか。」と声をかけたのに対して、甲がいきなり逃げ出しているところ、当該事実は、逮捕者が声をかけて誰であるかを問い質したら相手が逃走しているといえ、逮捕者であるPの認識において「誰何されて逃走しようとするとき」(同項4号)にあたる。

3 甲は、「罪を行い終ってから間がない」にあたる。

(1) 通常逮捕における令状主義の趣旨は、あらかじめ令状裁判官に逮捕の理由・必要性を審査させることにより、被疑者の人権を保障する点にある。現行犯逮捕が令状主義の例外とされているのは、現行犯人は犯罪の犯人であることが逮捕者にとって明白で誤認逮捕のおそれがなく令状審査を経る必要性が乏しいこと及び直ちに身体を拘束する高度の必要性・緊急性が認められることにある。

そこで、「罪を行い終ってから間がない」にあたるかどうかは、逮捕者が逮捕時に認識した具体的状況のものにおいて、犯罪との結びつきが消え去ることなく残存し、そのような状況から犯罪と犯人が明白といえるかどうかによって判断する[1]

(2) 本件では、確かに、本件では、犯行と逮捕の間に約1時間40分、約5キロメートルの時間的場所的隔たりがある。しかし、前述のとおり、甲には212条2項2号及び4号該当性が認められるところ、犯罪と犯人との結びつきが強く認められるといえる。また、甲ともう1名の男は犯人と特徴が一致していることも併せて考慮すれば、Pにとって、犯罪と犯人が明白であるといえる[2]

(3)したがって、甲は「罪を行い終ってから間がない」にあたる。

4 よって、①の逮捕は、準現行犯逮捕として適法である。

第2 設問2

1 ②の措置は、接見指定(39条3項本文)として適法である。

2 ②の措置は、「捜査のため必要があるとき」にあたる。

(1) 同項の趣旨は、弁護人依頼権(憲法34条)という憲法上の保障される権利に由来する重要な権利である接見交通権と、1つしかない被疑者の身体を利用した厳格な時間制限の下でなされる捜査の緊急の必要性との合理的調整を図る点にある。

そこで、「捜査のため必要があるとき」とは、取調べの中断等により、捜査に顕著な支障が生じる場合をいうと考える[3]

(2) 本件では、S弁護士から電話があったとき、Rは、甲に本件被疑事実に用いたナイフの投棄場所を案内させて、ナイフの発見、押収及び甲を立会人としたその場所の実況見分を実施するために出発しようとしていたところであり、間近い時に実況見分をする確実な予定があったといえる。また、S弁護士は、午後5時30分から30分間甲と接見したい旨の申出をしているところ、かかる申出に沿った接見を認めては、上記実況見分を予定どおり開始できなくなることは明らかである。

(3) したがって、「捜査のために必要があるとき」にあたる。

3 ②の措置は、「被疑者が防禦の……不当に制限する」(39条3項但し書)ものではない。

(1) 初回接見は、身体拘束をされた被疑者によっては、弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であり、弁護人依頼権(憲法34条)の保障の出発点を成すものである。そこで、初回接見における接見の指定が「被疑者が防禦の……不当に制限」しないようにするには、弁護人となろうとする者と協議して、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能かどうかを検討し、これが可能なときは、特段の事情のない限り、被疑者の引致後直ちに行うべき手続及びそれに引き続く指紋採取、写真撮影等所要の手続を終えた後において、比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時又は近接した時点での接見を認めなければならない[4]と考える。

(2) 本件では、S弁護士とRは接見指定の時間について協議を行っている。S弁護士は、令和2年10月2日時点においては、午後5時30分から30分間以外には接見の時間が取れず、かかる時間に接見を認めると、実況見分の現場に到着する頃には辺りが暗くなり、犯行に用いられたナイフの発見や実況見分の実施が困難になることが予想された。以上にかんがみれば、本件では、即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能とはいえない。したがって、Rが接見は翌日の午前9時以降にしてほしい旨伝えたことは、S弁護士の接見が可能な時間でもっとも近接した時間での接見指定であったといえる。

(3) よって、Rの接見指定は、「被疑者が防禦の……不当に制限する」にあたらない[5]

4 以上より、②の措置は適法である。

以上

 

[1] 大澤裕「被疑者の身体拘束――概説(2)」法教444号(2017年)・121頁参照。時間的近接性と犯罪・犯人の明白性を2つの要件に分けないで検討する見解である。

[2] 問題文の事情が少ないため、適法違法どちらもあり得るところと思われる。最決1996年(平成8年)1月29日刑集50巻1号1頁の事案と比べても、本件は犯罪・犯人の明白性がそこまで強くないと思われ、かなりの限界事例といえる。

[3] 最大判1999年(平成11年)3月24日民集53巻3号514頁参照。

[4] 最大判2000年(平成12年)6月13日民集54巻5号1635頁参照。

[5] 辺りが暗くなることでどこまで捜査が困難になるかは明らかではないため、②の措置が違法であると考えることも十分可能であると思われる。