法律解釈の手筋

再現答案、参考答案、法律の解釈etc…徒然とUPしていくブログ… ※コメントや質問はTwitterまで!

平成25年度 予備試験 憲法 解答例 

解答例

第1 主張と反論の対立点(以下、憲法は法名略。)[1]

1 乙案について(アがDの主張、イが反論。)

(1) 審査基準

ア 特定の都道府県からの立候補の制限は、被選挙権(15条1項)を直接制約するため、厳格に審査されるべきである。

イ そもそも選挙のルールをどのようにするかは立法府の広範な裁量が認められている(47条)。また、特定の都道府県での立候補を制限するにすぎず、制約態様は一定限度であるため、厳格な審査は不要である。

(2) 手段審査

ア 立候補自体はでき、そうだとすれば、後援会組織や知名度等を利用できるため、規制目的との適合性がない。また、後援会組織の資金の承継の制限や、「世襲」議員である旨の掲示義務を課す等の、より制限的でない方法によることが可能であり、過剰な規制である。

イ 後援会組織や知名度を利用することはできるが、政党からの選挙資金の提供を受けることができず、「世襲」議員のメリットを一定程度制限できるため、規制目的との適合性はある。また、資金の承継の制限は、私人間の契約による抜け道等があり、実効性が担保できない。掲示義務は、むしろ「世襲」議員への投票を加速させるおそれがある。これらの手段の適合性に疑義があるとすれば、本件規制が必要かつ合理的である。

2 甲案について

(1) 15条1項違反の点((ア)がDの主張、(イ)が反論。以下同じ。)

ア 被選挙権の制約

(ア) 甲案は、事実上立候補を断念させるため、被選挙権の制約が認められる。

(イ) 甲案は、立候補自体を禁止せず、被選挙権の制約が認められない。

イ 審査基準

(ア) 甲案は、公認候補という重要な利益を実現するため、特定の都道府県での立候補を断念することを余儀なくさせるため、厳格に審査される。

(イ) 候補者の立候補自体が妨げられるものではなく、甲案は間接的制約にすぎないため、緩やかに審査される。

ウ 手段審査

上記1(3)と同様。

(2) 21条1項違反の点

ア 審査基準

(ア) 公認候補の制限は、候補者選定という政党の活動の核心を制限するものであり、厳格に審査される。

(イ) 政党は公的性格を有するものであり、その規制については立法裁量が認められ、緩やかに審査される。

イ 手段審査

上記1(3)と同様。

第2 私見

1 乙案について

(1) まず、被選挙権は、選挙権と表裏のものとして15条1項により保障される(三井美唄労組事件判決[2]参照)。

(2) 次に、本件規制による被選挙権の制約は、当然に認められる。

(3) かかる制約は、正当化される。

ア 判例によれば、国民の選挙権又はその行使を制限する場合には、制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならない(在外国民選挙権違憲判決[3]参照)。被選挙権は選挙権と表裏の関係にあるところ、D主張のとおり同権利が直接制約されている本件においては、同判例の射程が及ぶ。そこで、そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ被選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合に限り正当化されると考える。

イ 本件では、乙案でなくとも、甲案のような間接的な制約もあり得るところ、乙案なしに公正な選挙の確保が困難とまではいえない。

ウ したがって、上記制約は正当化されず、15条1項に反し、違憲である。

2 甲案について

(1) 15条1項違反の点

ア まず、被選挙権の保障は、前述のとおり、当然に認められる。

イ 次に、公認候補になることができないことは、政党の名前を掲げることができない、ビラ・ポスター配りといった選挙運動に制約がある、等の事実上の不利益があり、立候補を断念させることにつながるため、D主張のとおり制約が認められると考える。

ウ もっとも、かかる制約は、以下のとおり正当化される。

(ア) 判例によれば、間接的ないし事実上の制約は、重要な法的利益を実現するため権利放棄を余儀なくさせる場合には実質的に厳格に審査されるが(性同一性障害特例法違憲決定[4]参照)、そうでない場合は実質的に緩やかに審査される (オウム真理教解散命令事件決定[5]参照)。公認候補がなくとも立候補をする者は少なくないと思われるところ、公認候補は、権利放棄を余儀なくさせるとまではいえない。そこで、①目的が正当で、②目的と手段との間に合理的関連性があれば足りる。

(イ) 本件規制の目的は、「世襲」議員のメリットを解消する点にあるところ、公正な選挙の実現のために正当かつ重要といえる(①充足)。また、公認候補でなくなると、政党からの支援が受けられず、少なくとも選挙資金を一定程度失うため、規制目的との間に合理的関連性はある(②充足)。したがって、Dの主張は認められない。

(ウ) よって、上記制約は正当化され、15条1項に反せず合憲である。

(2) 21条1項違反の点

ア まず、公認候補の選定は政党の選挙活動の核心をなすものであり、結社の自由の一内容として保障される。

イ 次に、「世襲」議員の特定の都道府県での公認を制限されており、制約が認められる。

ウ もっとも、かかる制約は正当化される。

(ア) 本件は、D主張のとおり、結社の自由を直接制約する。しかし、判例も政党が議会制民主主義を支える不可欠の要素であるところは認めているところ(八幡製鉄事件判決[6]参照)、反論のとおり、公的性格を有することは無視できない。そこで、①目的が重要で、②手段と目的との間に実質的関連性がない限り、制約は正当化されないと考える。

(イ) 規制目的は上記のとおり重要である(①充足)。また、反論のとおり、D主張の他の手段は、目的との関係で実効性を確保することが困難であり、適合性がない。そうだとすれば、本件規制は過度な規制でないといえる(②充足)。したがって、Dの主張は認められない。

(ウ) よって、上記制約は正当化され、21条1項に反せず、合憲である。

以上

 

[1] 本解答例では、甲案について、15条1項と21条1項の両方の観点から論じている。しかし、実際の試験では、時間との関係でここまで論じることができるか疑問である。いずれかの権利から論じることができていれば、十分合格答案になると思われる。どちらの権利から論じることが望ましいかについては、Dとしては、間接的な制約ではなく直接的な制約が認定可能な21条1項を強く主張していくであろうから、21条1項を論じる方が望ましいと思われる。

[2] 最大判1968年(昭和43年)12月4日刑集22巻13号1425頁。

[3] 最大判2005年(平成17年)9月14日民集第59巻7号2087頁。

[4] 最大決2023年(令和5年)10月25日民集77巻7号1792頁。

[5] 最決1996年(平成8年)1月30日民集第50巻1号199頁。

[6] 最大判1970年(昭和45年)6月24日民集24巻6号625頁。