解答例
第1 Xの立場からの憲法上の主張
1 インタビューに応じた者の名前は「職業の秘密」(民事訴訟法197条1項1号)に該当し、証言を拒絶することができる。
(1) 「職業の秘密」該当性
ア 「職業の秘密」とは,その公開によってその職業が深刻な影響を受け以後その遂行が困難になるものをいう[1]。
イ 本件では、Xのインタビューの取材源が問題となっている。取材源は、一般に、それがみだりに開示されると、将来の自由で円滑な取材活動が妨げられることになり、深刻な影響を与え、以後の業務の遂行が困難になるといえる。
ウ したがって、「職業の秘密」に該当する。
(2) 要保護性該当性
ア 職業の秘密にあたる場合でも、保護に値する秘密のみに証言拒絶が認められる。具体的には、NHK証言拒絶事件決定[2]によれば、秘密の公表によって生じる不利益と証言拒絶によって犠牲になる真実発見および裁判の公正との比較衡量により決せられると考える。そして、同決定によれば、対象となる秘密が取材源となる場合には、①当該報道が公共の利益に関するものであって、②その取材の手段、方法が一般の刑罰法令に触れ、または、取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく、③当該民事事件が社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため、当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く,そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には,当該取材源の秘密は保護に値する。
イ 本件は、SDGsにコミットしているとされる家具メーカー甲が、森林破壊の批判を受けているC国から木材を輸入している疑惑についてのインタビュー動画であり、企業の不正及び環境問題につながる点で公共性を有する内容といえる(①充足)。また、Xの取材の手段、方法が刑罰法令に触れるという事情はないし、取材源者からの承諾もない(②充足)。そして、本民事事件は、取材を受けたと思われるYに対する守秘義務違反の損害賠償請求事件であって、単なる契約違反による社会的意義や影響ある重大な民事事件とまではいえない。
(3) したがって、本件のインタビューに応じた者の名前は、「職業の秘密」にあたる。
2 したがって、Xは、証言を拒絶することができる。
第2 私見
1 要保護性の要件について
(1) 本問における取材は、フリージャーナリストによるものであり、報道機関によるものでないため、そもそも憲法上の保障ないし十分尊重に値する範囲の取材ではなく、NHK証言拒絶事件決定の上記③要件を用いることはできない、との反論が考えられる[3]。
(2) かかる反論は、