法律解釈の手筋

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平成23年度 予備試験 民法 解答例(新規定対応)

解答例

1 Dは、Cに対し、所有権に基づく甲土地明渡請求をすることが考えられる。かかる請求が認められるためには、①D甲土地所有②C甲土地占有が認められなければならない[1]

2 ①D甲土地所有について

(1) 甲土地もと所有者Aは、Bに対し、平成20年3月5日甲土地を売った(以下、「AB間売買」という。)。その後、Bは、Dに対し、平成21年10月9日、甲土地を1000万円で売った(以下、「BD間売買契約という。」)。

(2) しかし、AB間売買は、税金の滞納による差押えを免れる目的でABが「通謀」して仮装した売買契約であり、ABの売買契約に係る意思表示は「虚偽表示」である。したがって、AB間売買契約は無効であり(民法94条1項(以下、民法は法名略。))、Dは順次承継によって甲土地所有権を取得できない。

(3) しかし、Cは、AB間売買契約の当事者及び包括承継人以外の者であり、かつ、虚偽表示が認められると甲土地の所有権の取得を否定される点で、表示の目的について法律上の利害関係を有する者といえ、「第三者」(94条2項)にあたる。また、Dは甲土地についてのAB間売買が仮装によるものであることを知らず、それを知らないことについて過失もなかった以上、「善意」にあたる。さらに、Dは甲土地の所有権移転登記を具備しているため、この点についても問題とならない。

(4) したがって、AはDに対し自己の甲土地所有権を対抗できない結果、Dが甲土地所有権をAから法定承継する。

3 ②C甲土地占有について

Cは甲土地上に存在する乙建物に居住することで甲土地を占有している。

4 占有権原の抗弁

(1) Cは、Bと平成21年5月23日、甲土地について賃貸借契約を締結している(以下、「BC間賃貸借契約」という。)ところ、Cに甲土地の占有権原が認められるか。

(2) 第1に、Cに甲土地の正当な占有権原が認められるか。

ア Bは前述のとおり甲土地について無権利者であるため、BC間賃貸借契約は他人物賃貸借となる(559条、561条)。平成21年12月16日、甲土地もと所有者であったAが死亡し、唯一の相続人であるAの子BがAの一切の権利義務を承継した(896条)。したがって、Bは、Aの甲土地についての処分権を承継した[2]。そこで、BがCに対しBC間の賃貸借契約の追認(116条本文)をすることで、Cは甲土地について正当な占有権原を有することにならないか。

イ まず、Bは、他人物賃貸借について追認(116条本文)をすることができるか。

(ア) BC間賃貸借契約は他人物賃貸借であり、無権代理行為ではないため、116条本文を直接適用することはできない。しかし、無権代理行為後の承認も他人物賃貸借契約後の承認も権利主体の私的自治的決定を尊重する点で同一であるところ、同条類推の基礎がある。そこで、他人物賃貸借契約について116条類推適用が認められると考える[3]

(イ) 本件におけるBC間賃貸借契約は他人物賃貸借である。

(ウ) したがって、116条類推適用が認められる。

ウ 次に、116条類推適用が認められるとしても、Bは、相続によって承継したAの地位に基づいて追認拒絶をすることも考えられるところ、かかる追認拒絶が認められるか。

(ア) 相続人は被相続人の権利義務を承継した場合に、被相続人の資格に融合されると解すると、本人が無権代理人ないし無権利者の地位を承継した場合に追認拒絶権を失うことになり、妥当でない。そこで、相続によって、相続人は、自己の地位と被相続人の地位を併存して有することになると考える。もっとも、無権代理人ないし無権利者が本人の地位を承継したことを理由に、自己の無権代理行為ないし他人の権利の処分について追認拒絶できるとすることは、矛盾挙動として信義族(1条2項)に反し許されないと考える[4]

(イ) 本件では、Bは、Aたる他人の所有に属する甲土地をCに賃貸した者であり、そのような者が相続によって承継したAの地位に基づいて追認を拒絶することは、矛盾挙動として信義則に反する。

(ウ) したがって、BC間賃貸借契約は相続と共に当然に有効となる。

エ よって、Cは、遡及的に平成21年5月23日の時点で甲土地占有権原を有する。

(3) 第2に、Cに甲土地の正当な占有権原が認められるとしても、Dが「第三者」(116条但し書)にあたり、自己の占有権原を対抗することができないのではないかが問題になる。

ア 同条但し書の趣旨は、追認の遡及効によって権利を害される第三者を保護する点にあるところ、物権変動については、対抗要件の規定によってその優劣が決するため、同条但し書の適用はない[5]

イ 本件でも、Cの甲土地占有権原取得とDの甲土地所有権取得も、対抗要件の先後によって決せられる。Cは、平成21年5月23日に乙建物の登記を有するところ、甲土地の借地権について対抗要件を具備しているのに対して、Dは、平成21年10月9日に甲土地の所有家移転登記を具備しており、Cの対抗要件に劣後する。

ウ したがって、Cは甲土地の占有権原をDに対抗することができる[6]

5 以上より、Dのかかる請求は認められない。

以上

 

[1] Dは乙土地収去まで求めているかが問題文からは読み取れない。もし仮に、乙建物収去まで求めているとすれば、要件事実は①D甲土地所有②甲土地上に乙建物存在③乙建物C所有となる。類型別・59頁。

[2] この点について、94条2項によってAは確定的に所有権を喪失した以上、Bは甲土地の処分権について承継しないのではないかとも思えるが、もし仮にAが生きていた場合、Aの追認権が94条2項によって喪失はしないと思われるため(D←A→Cという二重譲渡類似の関係になるにすぎない)、Bも甲土地の追認権について承継するものと思われる。

[3] 最判1962年(昭和37年)8月10日民集16巻8号1700頁。

[4] 無権代理人の本人相続において、無権代人が追認拒絶することを信義則上認めないとした判例として、最判昭和1962年(昭和37年)4月20日民集16巻4号955頁。この判例法理は、他人物賃貸借にも及ぶと思われる。

[5] 新版注釈民法(4)・372頁〔中川淳〕。

[6] 実質的に考えても、Dは、甲土地を購入する際に、現地を調査するはずであり、その際、甲土地上に乙建物が存在すること、乙建物にCが居住することについて認識していたはずであり、そうだとすれば、甲土地の売却価格1000万円もそれが反映された値段のはずである。したがって、DよりもCを保護する必要性が高いと思われる。