法律解釈の手筋

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『ロースクール演習 民事訴訟法[第2版]』 問題32 解答例

解答例

 

第1 設問1 (以下、民事訴訟法は法名略。)

 XY「訴訟」が「係属中」に、ZはXY訴訟の目的たるXのYに対する貸金返還請求権を譲り受けているため、かかる「権利」を譲り受けたと主張して、参加承継の申し出をすることができる(49条)。

第2 設問2

 1 前述のとおり、XY訴訟は係属しており、ZはXのYに対する貸金返還請求権を承継しているため、YはZがXY訴訟の目的たる「権利」を譲り受けたと「主張」して、引受承継の申立てをすることができる(51条後段、50条1項)。

 2 なお、権利承継の訴訟引受の場合、申立人は能動的当事者ではないため、引受人から申立人への請求定立が擬制されると考えるところ、申立人は引受承継の申立て以外に請求の定立は必要ないと考える。本件ではZのYに対する貸金返還請求が定立されたと擬制するため、Yは引受承継の申立てのみで足り、Yからの請求の定立は必要ない。

第3 設問3

 1 Xの本件陳述は、被告Yが証明責任を負う弁済の抗弁事実という自己に不利益な事実を認めて争わない旨の陳述たる裁判上の自白にあたり、Xに対して不可撤回効が生じる。そうだとすれば、かかる効果はXY訴訟に引受承継したZに対しても生じないか。

 2 通説は相手方の既得的地位の保障の観点から、生成中の既判力なるものが承継人にも及ぶとし、訴訟状態承認義務を肯定する[1]

   しかし、このような既得的地位の保障は、承継人の手続保障を著しく害する。また、既判力というのは、訴訟物に生じるのに対し、訴訟状態承認義務は判決理由中の判断ともいえる、自白等の訴訟行為に拘束力を認めるのであり、既判力とは構造的に矛盾する。そして、このような訴訟の過程に拘束力を認めるというのは、裁判官の心証という浮動的で検証不可能なものに基づいて拘束力を認めることにほかならず、妥当でない。

    そこで、参加承継の場合は別論としても、引受承継の場合には訴訟状態承認義務は認められないと考える[2]

 3 本件においても、ZはXの自白に拘束されることなく、これと異なる主張をすることが認められる。

4 よって、Xの本件陳述は、Zに対して何らの効力も有しない。

第4 設問4

 1 裁判所は、債権譲渡の事実が存在しないとの心証を形成した場合、当事者適格がないとして訴えを却下すべきか、本案判決をすべきか。

 2 訴え却下では、ZのYに対する再訴を既判力で封じることができず、不当である。また、債権の帰属は本案における請求を基礎づける事実である以上、本案判決をすべきと考える。

 3 前述のとおり請求はZからYに対して定立されたと擬制するため、裁判所はかかる請求を棄却すべきであると考える。

第5 設問5

 1 XはZを承継人として、引受承継の申立てをすることができるか。

 (1)確かに、51条は「当事者」と規定しており、原告被告を問わない。しかし、同条の趣旨は訴訟資料の継続的利用や訴訟経済といった点にあるところ、かかる点に関心を持つのは引受承継後に当事者となる者であり、譲渡人は引受承継を申し立てる実益がない。また、自らが訴訟から脱退したいのであれば、単に訴えを取り下げたり請求を放棄したりすればよいのである。

   そこで、「当事者」とは、義務者に限られると考える

 (2) 本件では、Xは権利の譲渡人であり、義務者ではない。

 (3) したがって、Xは引受承継の申立てをすることができない。

 2 よって、Xとしては、Xに参加承継の申し出を促したりYに訴訟引受申立てを促したりすることができるにとどまり、かつ、それで足りる。

以上

 

[1] 兼子一『民事法研究第一巻』(酒井書店、1940)141頁以下参照。

[2] 新堂幸司「訴訟承継論よ、さようなら」『民事手続法と商事法務』(商事法務、2006)378頁参照。訴訟状態承認義務を否定する論拠をまとめると①口頭弁論終結後の承継人との対比で「生成中の既判力」は認められないこと②訴訟承継人も新たな当事者であり、手続保障を与えなければならないこと③承継人から手続保障を奪う「生成中の既判力」は、115条1項1号の解釈上認められないこと④裁判官の心証・証拠調べ・弁論の全趣旨について「生成中の既判力」を認めるとしても検証不可能でありナンセンスであること⑤承継人と相手方との間では、当事者権と裁判所の訴訟指揮とのせめぎ合いになり、その中で従前の訴訟資料をどこまで使えるかが流動的に決まるところ、そこに「生成中の既判力」の働く余地はないことを挙げる。