法律解釈の手筋

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平成25年度 予備試験 民法 解答例(新規定対応)

解答例

 

第1 設問1(1) (以下、民法は法名略。)

1 本件契約の有効性

(1) 債権譲渡は、意思表示の時に債権が現に発生していることを要しないところ(466条の6)、現在債権と将来債権をまとめて担保の目的とする債権譲渡担保契約も認められる。もっとも、いかなる債権でもまとめて譲渡が可能と解すると、一般債権者が債務者の責任財産を把握することができず、不測の損害を被る。そこで、目的債権が他の債権との識別可能性を有している場合には、公序良俗(90条)に反せず、有効であると考える。具体的には、目的債権の始期終期を明確にするなど、適宜の方法により特定すべきであると考える。

(2) 本件では、現在有している債権から1年後までとその範囲が明確にされており、かつ債権の種類も、パネルの部品の製造及び販売に至る代金債権と特定されている。

(3) したがって、本件契約は有効である。

2 甲債権の取得時期

(1) 将来債権譲渡には、債権譲渡契約時に未だ債権の法的原因すら存在していない債権と、債権譲渡時に債権の法的原因が存在しており、既に譲渡人の一定の地位が認められる場合の債権が存在する。前者の債権については、債権譲渡契約時に法的原因すら存在していない場合に、契約時に債権が移転したと考えることはできない。

   そこで、将来債権譲渡契約時において移転するのは譲渡人の処分権であり、債権が移転するのは債権発生時であると考える[1]。この点、平成19年判決[2]は、譲渡契約によって目的債権が確定的に譲渡されると判示しているものの、前述のとおり、債権発生前に債権の移転を観念することはできないため、この債権の譲渡とは、処分権の喪失を意味すると解するべきである[3]

(2) 本件では、甲債権の発生原因であるAC間の売買契約は、平成25年3月1日に締結されている。

(3) したがって、Bは、甲債権を平成25年3月1日に取得する[4]

第2 設問1(2)

1 まず、CはFに対して、甲債権がAからBに譲渡されたため、Fは甲債権を差し押さえることができないと主張することが考えられる。かかる主張は認められるか。債権譲渡と差押えの競合が問題となる。

(1) 債権譲渡と差押えが競合する場合も、実質的には債権の二重譲渡と同様である。そこで、差押債権者と債権譲受人との間の優劣は、債権の債務者への譲渡通知の到達日時と債権差押・転付命令の第三債務者への送達日時の先後によって決すると考える。

(2) 本件では、AB間の債権譲渡の通知は5月7日にCに到達しており、他方、Fの差押命令は5月2日にCに送達している。

(3) したがって、かかる主張はFからの支払請求を拒絶する論拠にならない。

2 次に、Cは、Fに対して、甲債権はCからDに対して免責的債務引受がされたため、Fは自己に支払いを請求できない、と主張することが考えられる。かかる主張は認められるか。

(1) Cは免責的債務引受について何らの介入もしていないが、債権者と引受人による免責的債務引受契約の場合、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生じるため(472条2項)、AがCに対しAD間の契約をした旨を通知すれば、効力が生じる[5]

(2) 仮にAからCに対し通知がされた場合、Cは免責的債務引受によって債務免除されたことをFに対抗することができるか。

ア 免責的債務引受には対抗要件制度がない[6]が、免責的債務引受がなされた後に当該債権について利害関係を有するに至った第三者に対して債務が免責されたことを対抗できないとすれば、債務者の法的地位は著しく不安定になる。そこで、債務者は、免責的債務引受の効力発生後に当該債権につき利害関係を有するに至った第三者に対して、債務が免責されたことを対抗することができると考える。

イ 本件では、Fの差押命令は平成25年5月2日にCに送達されている。

ウ したがって、AのCに対する免責的債務引受契約の通知がそれよりも前であれば、DはCに対して債務免責されたことを対抗することができる。

(3) よって、かかる主張は、Fからの支払請求を拒絶する論拠になる。

第3 設問2

1 債務者は、悪意又は重過失ある債権譲受人に対しては、譲渡制限特約を理由に債務の履行を拒絶することができる(466条3項)。そして、将来債権譲渡において、目的債権について債務者権利行使要件具備時までに譲渡制限特約が付された場合、債権の譲受人は、当該特約について悪意が擬制される(466条の6第3項)。

2 本件では、AE間の譲渡制限特約については平成25年3月5日に意思表示がされている。これに対して、AのEに対する債権譲渡通知は、平成25年5月7日にEに到達している。

3 したがって、Bの悪意が擬制され、Eは、Bからの請求を拒絶することができる。

以上

 

[1] 森田宏樹「事業の収益性に着目した資金調達モデルと動産・債権譲渡公示制度」金融法研究第21号(2005年)81頁。また、ドイツの判例も類似の理解を示している。ドイツ法の議論については、和田勝行『将来債権譲渡担保と倒産手続』(有斐閣、2014年)・特に170頁参照。なお、本解答例の見解については、そもそも債権譲渡契約時に対象債権の発生原因たる契約すら締結されていない場合には「処分権」や「債権者となる法的地位」を観念することもできない、との批判がある。例えば、白石大「将来債権譲渡の対抗要件の構造に関する試論」早稲田法学89巻3号(2014年)・135頁、同「将来債権譲渡の法的構造の解明に向けて(上)」法律時報89巻3号(2017年)・104頁は、対抗要件における公示・対抗の対象を「債権の移転を目的とする法律行為(契約)」とし、第三者に当該契約を対抗することができる、と解する。水津太郎「ドイツ法における将来動産と将来債権の譲渡担保」法学研究88巻1号(2015年)・199頁によれば、ドイツ法の有力説として、無権限者が多重処分をした後で追完が生じた場合に先の処分のみが有効になるとする規定(BGB185条2項)を類推適用する見解がある。

[2] 最判2007年(平成19年)2月15日民集61巻1号243頁。

[3] 和田・前掲注(1)174頁注(612)参照。また、増田稔『最高裁判例解説民事篇 平成19年度(上)』(法曹会、2010年)・135頁も、同判決は、譲渡担保の目的とされた将来債権の移転時期に関する民法上の論点については判断を留保した、とする。

[4] この債権取得が原資取得なのか譲渡人からの承継取得なのかについても争いがある。

[5] 本問題は、債権法改正前の問題のため、通知についての事情が問題文にはない。したがって、この後は留保付きで論述を勧める。

[6] 債権法改正において①債権差押えと免責的債務引受の優劣②債権譲渡と免責的債務引受の優劣について議論があったものの、学説での議論が深まっていないということで、規定を設けることが見送られた。「民法(債権関係)の改正に関する論点の検討(10)」『民法(債権関係)部会資料38』・16頁。